たきざわ法律事務所

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内部通報で発覚!休業手当の支払いがない!

1 はじめに

 たきざわ法律事務所では、企業より、企業のコンプライアンス強化のため内部通報窓口の運営をご依頼いただいており、企業の社員からの通報を受け付けております。
 昨今企業の社員からの相談として多いのは、やはり新型コロナウイルス感染拡大を受けた企業の対応についてです。企業が新型コロナウイルス対策を実施してくれない、感染が怖くてリモートワークでの執務を求めているのに出社を求められる等の通報です。この点については別にコラムで記載する予定ですが、今回は、通報の中で、休業を求められたものの、休業手当が支払われなかったという事例について解説したいと思います。

※なお、実際のケースをもとに一部変更した上で記載しております。また、事例に登場する会社からは掲載にあたって承諾を得ています。

2 事例

 通報は、ある飲食店に勤務する学生アルバイト(以下「X」といいます。)からでした。Xがアルバイトで勤務する会社(以下「Y」といいます。)は、複数の居酒屋やカフェを経営する会社で、各店の管理はほぼ店長に任せている会社でした。たきざわ法律事務所では、Yの本社より内部通報の外部窓口の運用をご依頼いただいており、過去に店長のパワハラが問題になった際に事実調査及び人事処分に関与したことがありました。
 さて、今回、Xからの通報は以下のとおりでした。

 ・ある日、バイトのためYの運営する店舗に出勤したところ、店長より新型コロナウイルスの影響で店の売上がかなり悪く、店舗を縮小稼働させることになった。
・そのため、基本的には正社員で店を回すため、Xを含む学生アルバイトについては今月(令和2年4月)休んでもらいたい。
・また、そもそもY社の就業規則には休業補償の規定はない。また、店の売上減少はコロナウイルスの感染拡大が原因であるから、店側に何も落ち度はない。そのため、Xが休むことについて休業補償を支払うことはできない。

このようなY側の対応(店長の対応)は問題ないのでしょうか。

3 Yの問題点

(1)休業手当の支払いをしない点
 Yの問題点としては、当然ながら、就業規則に休業手当の規定がないこと、休業手当の支払いをしないことです。では、今回、Yとしては、Xに対し休業手当を支払う必要があるのでしょうか。
 以下では、賃金支払の原則と休業手当の考え方を簡単に解説した上で、本件におけるYの対応について解説します。

(2)賃金の考え方
 賃金は、労務の提供によって発生する「労働の対償」(労基法第11条)です。つまり、改正民法第624条第1項にあるとおり、「労働者は、その約した労働を終わった後でなければ、報酬を請求することができ」ません。これをいわゆる「ノーワークノーペイの原則」といいます。したがって、労務の提供がない場合、使用者に賃金の支払義務は発生しないのが原則です。
 もっとも、会社都合による休業や自宅待機命令の場合には、労働者において労働の意欲があるにもかかわらず、会社の命令でと労働できず、そのせいで賃金を受け取ることができないという事態に陥ってしまいます。そこで、改正民法においては、このあたりの問題を以下のように整理しています(改正民法536条)。

①当事者双方の責めに帰することができない事由によって、労働者が労務の提供をすることができなくなったときは、労働者は賃金を受ける権利を有しない。

②使用者の責めに帰すべき事由によって、労働者が労務の提供をすることができなくなったときは、労働者は賃金を受ける権利を有する。


(3)休業手当の考え方
 他方で、労働基準法第26条は、「使用者の責に帰すべき事由による休業」に際して、使用者は労働者に対して平均賃金の60%以上を支払うよう求めています。これが休業手当です。ここでも「使用者の責に帰すべき事由」という用語がありますが、 改正民法536条に定める帰責事由よりもその解釈がさらに広げられ、不可抗力事由以外の使用者側の事情(経営、管理上の障害を含む)は広くこれに該当すると考えられています(ノース・ウエスト航空事件(最高裁判所昭和62年7月17日判決))。

 以上の賃金及び休業手当の考え方を簡単に整理すると以下のようになります。
賃金 休業手当
労働者に帰責事由あり 支払義務なし 支払義務なし
使用者に帰責事由あり 支払義務あり 支払義務あり
(不可抗力事由を除く、広く使用者側の事情があるとき)
双方に帰責事由なし 支払義務なし 支払義務なし

(4)新型コロナウイルスによる事業縮小が「使用者の責に帰すべき事由」に該当するか
 では、新型コロナウイルスの影響でYの店の売上がかなり悪く、店舗を縮小稼働させることになったため、X含む学生アルバイトを休ませる場合、労働基準法第26条「使用者の責に帰すべき事由による休業」に当たるのでしょうか。換言すれば、不可抗力による休業に該当するか否かになります。
 この点について、営業縮小のもともとの原因は予測できなかった感染症の蔓延拡大防止のためですので、その意味ではYの店に責められるべき事情はありません(むしろ昨今の状況からすると縮小経営をする決断をされたことは賞賛されるべきことです。)。
 他方で、厚生労働省の見解として、不可抗力による休業と言えるためには、
 
 ①その原因が事業の外部より発生した事故であること
 ②事業主が通常の経営者としての最大の注意を尽くしてもなお避けることができない事故であること
 という要素をいずれも満たす必要があります。
 
 ①に該当するものとしては、例えば、今回の新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言や要請などのように、事業の外部において発生した、事業運営を困難にする要因が挙げられます。  
 ②に該当するには、使用者として休業を回避するための具体的努力を最大限尽くしていると言える必要があります。具体的な努力を尽くしたと言えるか否かは、例えば、

・自宅勤務などの方法により労働者を業務に従事させることが可能な場合において、これを十分に検討しているか

・労働者に他に就かせることができる業務があるにもかかわらず休業させていないか

といった事情から判断されます。
 緊急事態宣言に伴い、居酒屋やカフェについては営業時間の短縮を要請されていますが、休業要請までは出されておらず(令和2年4月10日時点での東京都における緊急事態措置の内容を前提にしています。)、また、宅配・テイクアウトサービスを実施する居酒屋も増えています。そのようなことからすると、仮に新型コロナの拡大防止に向けた対応として居酒屋・カフェの営業を縮小し学生アルバイトを休業させることにしたとしても、少なくとも使用者側の経営上の都合によって休業命令を発する場合であるため、「使用者の責に帰すべき事由による休業」(労基法26条)として、休業手当の支払が必要となる可能性が高いと考えられます。

(6)弁護士による内部通報窓口の必要性
① 顧問弁護士とのダブルチェックが可能
 今回、Yには顧問弁護士がいましたが、就業規則やコロナ対策に関して特に何かアドバイスを受けることがなかったようでした。
 Yの顧問弁護士は主には顧客の無断キャンセルに対する対応(キャンセル料の請求等)等に関する業務を依頼しており、顧問弁護士としてもYの経営する店舗でどのような経営がなされているかまでは把握できませんでした。
 顧問弁護士が必ずしも労働法に詳しいとは限らず、また、多くの経営者は、何かトラブルが起きた後に顧問弁護士に相談するというスタンスであり、顧問弁護士を就けても必ずしも企業に存在する潜在的な法的問題に対して認識できないのが実情です。
 誰もが誇りをも持てる企業を作るためには、実際に生じたトラブルについてだけ対処すればいいのではなく、潜在化しているリスク、問題をも認識している必要があります。
 そのためにも、既に顧問弁護士を就けている企業においても、一歩客観的に問題を捉えられる存在として、内部通報窓口を設置することをお勧めします。

② トラブルを小さいうちに解決
 内部通報窓口を設置することで、いち早く法的なトラブルを小さいにうちに解決することができます。
 たきざわ法律事務所では内部通報窓口を通じてですが、居酒屋やカフェなどの飲食店、学習塾の学生バイトからのコロナ関連の相談(通報)は非常に多いです。労働を専門にしている他の法律事務所でも同じような状況との連絡もいただいております。
 相談例によれば、飲食店の場合、緊急事態宣言を受け、営業を自粛するなどして、出勤停止や自宅待機を命じられたという相談や、あるいは、緊急事態宣言以前から、客が減ったために、「出勤を希望しているにもかかわらず、シフトを大幅に減らされてしまった。それに対して何らの手当もなされていない」という相談も多いようです。
 特に、学生のアルバイトの場合は雇用保険に加入することができないために(休学中などの場合を除く)、今回のコロナ情勢において離職した場合には失業手当を受けることができません。そのため、休業手当を受けられるか否かは重大な関心事になります。
 飲食店を経営されている企業様において、本件の問題は決して他人事ではないと思います。
 当事務所では、新型コロナウイルスによる企業様の負担を軽減すべく、人事・労務などの企業法務専門の弁護士によるサポートを整えております。
 お気軽にご質問等がございましたら、弊所までお問い合わせいただければと思います。
 コロナ禍により被害を受けた皆様および関係者の皆様、影響を受けられた皆様に心よりお見舞い申し上げますとともに、一日も早いご回復と、感染の収束をお祈りいたします。

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