たきざわ法律事務所

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パワハラ対策の必要性について

1 パワハラ防止対策の必要性

 労働施策総合推進法(いわゆるパワハラ防止法)が制定を受け、人事院が一般職公務員に関係するパワハラを防止するための新たな人事院規則を制定することが決定されました(令和2年1月14日)。平成30年度における一般職公務員からの苦情件数約23%に上っている中で、パワハラ防止対策は、企業だけの問題ではなくなっています。
 職場において行われるパワハラという点で、民間企業と公務員関係に差はありません。例えば、同僚の目の前で叱責されること、新人で仕事のやり方もわからないのに他社の仕事まで押し付けられること等パワハラに当たり得る行為は多岐に渡ります。
 パワハラが発生した場合、被害者は甚大な被害を受けることになりますが、これに対して、誰が、いかなる責任を負うことになるのでしょうか。
 以下では、民間企業におけるパワハラによって問われる責任を見ていこうと思います。

2 パワハラによって問われる責任

(1)行為者
 まず、パワハラの行為者(労働者)においては、傷害罪・暴行罪等の刑事責任に問われる可能性があります。また、民事上の責任として、被害者の身体侵害・名誉侵害・精神的苦痛等に対しての損害賠償責任を負う可能性もあります。さらに、会社から懲戒処分を受けることにもなります。これらにより、行為者の社会的信用が低下することはもちろんのころ、 場合によっては家庭生活が崩壊する等の重大な不利益を受ける可能性があります。

(2)会社の責任
 次に、パワハラ行為者の所属する会社においても、労働契約上の安全配慮義務違反の責任・パワハラ行為者の不法行為責任を前提とする使用者責任等を負う可能性があります。特に、パワハラが相当長期間に渡り執拗に繰り返された場合や長時間労働を伴っていた場合には、労働者の自殺という痛ましい事態に発展することも想定され、悪い意味で社会の関心を浴びることになります。 これらの場合には、パワハラ行為者と会社は多額の損害賠償責任を課される可能性もあります。
 なお、パワハラについて、労働施策総合推進法では、直接の罰則が定められていません。
 しかし、厚生労働大臣は、必要があると認めるときは、事業者に対して助言・指導・勧告をすることができます(同法33条1項)。また、雇用管理上必要な措置(同法30条の2第1項)又は配慮義務や国の講ずる措置に協力する義務(同法30条の3第2項)に違反した場合には、違反の旨の公表がなされることも想定されています(同法33条2項)。
 公表が行われた場合、会社の社会的信用は急降下しますし、他の従業員の会社に対する愛社精神もなくなり、仕事へのモチベーションも低下することになります。また、それのみでなく、今後の人材確保が困難となる等の不利益を受ける可能性さえあります。

3 もし、パワハラが発生してしまったら

 パワハラが発生してしまったら、被害者は甚大な被害を受けるのはもちろんのこと、パワハラ行為者及び会社は上記のような責任を負うことになります。
 会社としては、事前にパワハラが発生しないよう、内部通報窓口の設置や、各種の規定を策定する必要があることはもちろんですが、パワハラが発生してしまった場合にも備える必要があります
 
 具体的には、会社としては、相談対応、事実関係の確認の上、行為者に対して適切な措置の検討・実施をします。また、適切な措置の実施後には被害者・相談者へのフォロー、再発防止策の実施等も忘れてはいけません。
 特に、以下のようなことに注意して再発防止策を実施していくことが重要となります。

・パワハラ行為者に対しては就業規則等に基づいた適切な措置を行うこと、被害者・相談者に対しては最大限の配慮を行うこと
・当事者のプライバシーを守ること、被害者・相談者に不利益な取扱いをしないことを周知すること

4 懲戒処分

 会社がパワハラ行為者の社内における責任を問う適切な措置として、「懲戒処分」というものを耳にしたことがあるかと思います。
 懲戒処分とは、使用者が従業員の企業秩序違反行為に対して科す制裁罰のことをいいます。懲戒処分を行うことは、ハラスメント行為者に対して反省を求めること(特別予防)、また一般的にハラスメントは許されない行為であるとの表明することにもなります(一般予防)
 懲戒処分をするためには、あらかじめ懲戒規定により、どのような場合にどのような処分をするか定めておく必要があります。この点について、経営者の方の中には、処分対象者が悪質なことをしたのだから、懲戒規定の有無にかかわらず、それに対して不利益処分をするのは当然である、とおっしゃる方が意外に多いです。
 そのお気持ちはよく理解できます。しかしながら、罪刑法定主義の考え方からして、あらかじめ懲戒処分の根拠が必要であると説明されているところ、判例でも、就業規則において、あらかじめ、懲戒処分の種別(軽いものから順に、戒告・けん責、減給、出勤停止、降格、諭旨解雇、懲戒解雇をいいます。)及び事由(職務懈怠、ハラスメント等の職務規律違反等をいいます。)を定めなければならないとされております。
(懲戒処分の種別)
戒告・けん責 将来を戒めること(始末書の提出を求めない)・始末書を提出させて将来を戒めること
減給 労務遂行上の懈怠や職務規律違反に対する制裁として、本来ならばその労働者が現実になした労務提供に対応して受けるべき賃金額から一定額を差し引くこと
出勤停止 服務規律違反に対する制裁として労働契約を存続させながら労働者の就労を一定期間禁止すること(自宅謹慎等もこれに当たります。)
降格 役職・職位・職能資格等を引き下げること
懲戒解雇 企業秩序維持義務違反の懲戒の性質として、労働契約を終了させること(懲戒解雇を若干軽減させた諭旨解雇というものもあります。)

5 適切な措置としての懲戒処分

 実際にパワハラが発生した場合に、あらかじめ定立した懲戒規定に従って、懲戒処分を行うことになります。
 この場合に、様々な事情を考慮せず、パワハラがあったのだから当然に最も重い懲戒解雇だとすることはできるでしょうか。
 答えはNoです。
 懲戒処分を受けた者は、一定の場合に懲戒処分を無効として争う余地があります。
 労働契約法15条は、「①使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、②客観的に合理的理由を欠き、③社会通念上相当であると認められない場合、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。」(①~③は作成者注)と規定しています。
 つまり、①いくらあらかじめ懲戒規定を定立していたからといって、会社としては、②や③に当たるような懲戒処分を行うことのないようにしなければなりません。
 ②に関しては、当該懲戒処分に係る具体的行為が、当該行為の性質・態様等に照らして、労働者の企業秩序義務違反として類型化された当該懲戒事由に当たるか否かを判断しなければなりません。
 また、③に関しては、当該行為の性質・態様や被処分者の勤務歴等に照らして重きに失することがないこと(均衡性を欠くこと)、同程度の行為に対して行われた従来の懲戒処分と均衡がとれていること(公平性を欠くこと)、懲戒委員会の討議や弁明の機会付与等の手続規定に違反していないこと(手続を欠くこと)等がないようにしなければなりません。
 このように、パワハラ行為者に対する会社の処分を検討する際には、処分の合理性・妥当性について慎重に検討する必要がありますので、弁護士に相談されることをお勧めします。」

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